婚約発表を巡る波乱、宴の場で飛び交う悪意、そして流血の襲撃。命を賭して守る覚悟と、誰にも言えなかった想いが交錯する中、ふたりの関係は静かに揺れ動く。まさかの告白が、心の奥に火を灯す。
Contents
「星漢燦爛」第25話 あらすじ:決意と不安の交錯
凌不疑は、静かに霍君華の前に立った。少し緊張した面持ちで、程少商との婚約を報告する。その言葉に、霍君華はゆっくりとうなずいた。笑顔はなかったが、彼の決意を確かに受け止めた様子だった。
間もなくして、二人は楼家の宴に招かれる。絢爛な灯りの下、賑わう場の空気に交じって、程少商の名を侮る声が紛れ込む。何気ない一言のようでいて、そこには鋭い悪意が込められていた。程少商の背筋が僅かに強ばるのを、凌不疑は見逃さなかった。
その瞬間、彼は黙っていられなかった。誰の目にも明らかな気迫で、言葉の矢を放った者たちを遮る。程少商の名誉を、命に代えてでも守るという覚悟が滲んでいた。彼のその姿に、程少商は息を呑んだ。誰にも言えなかった不安が、少しずつほどけていくようだった。
宴のあとの静かな空気の中、霍君華は一人、かつての記憶と向き合っていた。息子の選んだ道を信じたいと思う一方で、心の奥に沈んだ過去の影が、静かに揺れていた。
一方、凌益はその決断に眉をひそめていた。家の名に傷がつくことを恐れ、程家との縁を改めて考え直すよう凌不疑に迫る。その言葉に、凌不疑の目は一瞬鋭く光るが、声は変わらず静かだった。
程少商は、誰にも気づかれぬように、何度もその夜のことを思い返していた。彼の前に立ちふさがったあの姿が、心に焼きついて離れない。不安がすべて消えたわけではない。それでも、信じたいと思った。信じてみたいと思ったのだった。
- 楼家の宴での侮辱に対して、凌不疑が激しく反応し程少商を全力で庇う姿が描かれる
- 霍君華と凌益がそれぞれ異なる立場から凌不疑の婚約を見つめ、親子の思いが交錯する
「星漢燦爛」第26話 あらすじ:自由と縛りのはざまで
宴師の最中、流不疑が大声で場に身を抜けた。その顔は冷やかで、相手が喋る前に、言葉を切って捨てた。笑いもせず、ただ、突きつけるように。
誰も口を出せなくなる中、正面に立つ程少商だけが、何も言わずに下を向いていた。身体が傾き、腕の中で持っていた袋が、微かに振れる。
帰りの駕車、流不疑は她をそっと見つめながら話しかける。「今日のこと、何か言っておきたくて」。しかし立て立て答える程少商の顔は、どこかとなく困惑げで、他を目を覆うことはなかった。
「私、だれの役付きでもないの」。その言葉は、まるで自分に言い聞かせるかのように。自由に育ち、自分の意思で動くことに、謎の自信を持っていた她にとって、他の役職や権力に守られることは、究極的に縛られることと同義だった。
その夜、流不疑は強い望をもってして她を守ろうとしたことが、程少商を迫りたてるような空気を生んでいた。
一方、汝陽王妃は、正しくそのとき、皆の動きに憤慨していた。元々、自分の家系の権力を守るために、この締約を破約しようとしていた她にとって、流不疑が自ら皆帝に結婚を頼んだことは、優しくない装置だった。
その台手は、しずかにして精神を蝕りつけるような気配りの中、一端の汝陽王だけが、それを「気持ちがわかる」と言った。その口調は素直で、自分も一旬、同じような不公平な結婚によって困った経験があるという。
程少商はその言葉に、そっと胸を縮めた。「理解される」ということが、これほど心に温かいのかと思ったまま、しばらくは声も出せなかった。
互いに、何を思い、何を思われているのか。そのずれは、しずかに、しっかりと、結婚というかたちがたい罠のようなものを、ゆっくりと捨てていく。
- 自由を尊ぶ程少商の葛藤が描かれ、流不疑の想いとのすれ違いが浮き彫りになる
- 汝陽王妃と汝陽王の対照的な態度が、政略結婚の重圧とそれに対する理解を印象づける
「星漢燦爛」第27話 あらすじ:厳しさの先にあるもの
朝も明けきらぬうちから、程少商は庭に引きずり出された。地面には露が残り、冷たい空気が肌を刺す。寝ぼけたまま立たされる彼女に容赦なく命じられたのは、武術訓練だった。相手は凌不疑。目を逸らさず、淡々と号令をかけるその姿に、彼女は苛立ちを隠せなかった。
訓練を終えた後、万萋萋のもとに駆け込むようにして酒をあおいだ。「あんな朝から、死ぬかと思った」と愚痴をこぼす少商に、万萋萋はにこりと笑う。「でも、ちゃんとこなしてるじゃない」。その言葉に、少商は黙って杯を傾けるしかなかった。
数日が過ぎても訓練は続く。砂埃の舞う中、凌不疑の声だけが規則正しく響いていた。彼は少商にだけ少し長く目を留め、彼女の動きに細かく指導を加えた。冷たく見えて、目は真剣だった。最初は気づかなかったが、彼のその態度が、どこか自分だけを気にかけているように思えてくる。
やがて、彼女の中で何かが変わり始めた。疲労の中にある達成感。痛む手足を見ながら、いつのまにか逃げたいという気持ちは薄れていた。
凌不疑が訓練を課す理由。それがただの規律のためではなく、程家を守るためだと知った時、少商は何も言えなかった。自分が反発していた相手は、自分たちの命を守ろうとしていたのだ。気づいた時には、彼を正面から見るようになっていた。
「あなたと結婚する」と口にしたとき、自分でも驚くほど心は静かだった。責任を背負うことが怖くなくなっていた。すぐそばで万萋萋が小さくうなずいていたのが、なぜか心に残った。
あの冷たい朝から、何かが確かに始まっていた。
- 過酷な武術訓練を通して、程少商が凌不疑の本心と覚悟に気づき始める過程が丁寧に描かれる
- 少商が自ら結婚の意思を口にすることで、内面の成長と変化が鮮やかに示される
「星漢燦爛」第28話 あらすじ:悲報と絆の誓い
夜の静けさの中で、凌不疑はじっと韓武の帰りを待っていた。元軍医と接触していた彼が、重要な情報を携えて戻ってくるはずだったからだ。
しかし戻ってきたのは、血に染まった報せだった。韓武は刺客に襲われ、命を落としたという。慌てて駆けつけた凌不疑は、その場で刺客と鉢合わせになる。剣を抜き応戦したものの、不意を突かれて肩に深い傷を負った。
その報せはすぐに文帝の耳に届き、宮中に緊張が走った。程少商もまた、凌不疑の負傷を知ると、いてもたってもいられず宮中へと向かう。文帝に呼び出され、凌不疑との関係について問われた彼女は、迷うことなく言葉を返した。「私は婚約を破棄する気はありません」と。
病床に伏す凌不疑のもとへ赴いた程少商は、彼の手を取り、そのまま静かに自分の想いを告げる。ただの気遣いではなかった。彼のためなら、すべてを背負ってもいいと、心の底からそう思った。
韓武の死は、凌不疑にとって重い現実だった。大切な部下を失った痛みと、守れなかった悔しさ。その中で、程少商の存在だけが唯一、彼を支えていた。
文帝は、そんな二人の姿を見て何も言わなかった。ただ静かにうなずき、医師たちに万全の治療を命じる。その背中には、ひとつの決意が見え隠れしていた。
こうして、悲しみと決意が交錯する中で、二人の絆は静かに、しかし確かに深まっていく。
- 韓武の死と凌不疑の重傷が物語に緊張をもたらし、程少商が自らの想いを明確にする転機となる
- 文帝の沈黙に込められた承認が、二人の絆の深まりと今後の展開を予感させる
感想
誰かを守るということは、時にその人を追い詰めることになるのかもしれない。
凌不疑のまっすぐすぎる強さに、程少商の揺れる心が痛いほど映った。訓練の厳しさや宴での沈黙、襲撃の一報――それぞれの瞬間に詰まった感情が、息を詰まらせるような重みで迫ってくる。それでも、ふたりは向き合うことを選んだ。言葉より先に動いた手、迷いのない眼差し。それは恋ではなく、確かな信頼だったのかもしれない。痛みとともに深まる絆、その静けさが胸に残った。