崖から落ちた知らせ、崩れる信頼、迫る刺客。過去を背負うふたりが、何度もすれ違いながらも「本当の絆」にたどり着こうとする愛と再生の物語が加速します。
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「度華年(どかねん)The Princess Royal」第17話 あらすじ:信じる理由と、歩き出す決意
裴文宣が崖から落ちたという報せが届いた時、李蓉の手から茶器が滑り落ちた。床に砕けた音が響き、部屋の空気が一瞬で凍りつく。誰よりも冷静であろうとした彼女の顔に、血の気が引いていった。胸の奥に信じたい思いがあった。彼はまだ生きている。そうでなければ、あの夜に交わした言葉の意味が消えてしまう。
夜が更けても、李蓉は灯を消さなかった。机の上には、裴文宣が追っていた事件の記録が積まれている。秦家の名が並ぶ文書を何度も読み返すうち、指先が震えた。彼の死を受け入れるより、真実を確かめる方がずっと現実的に思えた。刑部に向かう決意が静かに固まっていく。
刑部の門前で、蘇容卿が彼女を待っていた。冷たい風が吹く中、彼は馬から降り、低い声で言った。
「これ以上は危険です。殿下、お戻りください」
その言葉に、李蓉の足が一瞬止まった。彼の心遣いが痛いほど伝わったが、それでも進むしかなかった。信じる者を失えば、自分もまた闇に沈むと分かっていた。
その頃、裴文宣は崖下の森で目を覚ましていた。全身に痛みが走る。倒れた馬のそばに転がる鞄の中から、李蓉の印が刻まれた小さな札を取り出す。指先でそれを握りしめ、息を整える。生きなければならない理由が、そこにあった。彼は血の跡を残しながら、ゆっくりと森の奥へ進んだ。
数日後、李蓉は刑部に捕らわれた秦家の人々を救い出そうと動く。命を懸けた行動だった。その裏で、蘇容卿は兵を率いて包囲を敷く。彼女を守るための策だったが、李蓉の目には妨害にしか映らなかった。言葉の届かぬ誤解が、二人の間に冷たい距離を生む。
雨の夜、李蓉は回廊を一人で歩いていた。石畳を叩く雨音が、胸の鼓動と重なる。裴文宣の姿はどこにもない。それでも、彼がどこかで生きていると信じていた。前世で壊した絆を、今度こそ守り抜くために。
遠く離れた山の小屋で、裴文宣は焚き火の光に包まれていた。傷口を押さえながら、李蓉の名を心の中で呼ぶ。互いの存在を知らぬまま、同じ夜を過ごしていた。
- 裴文宣の生死不明の報せに動揺する李蓉が、それでも信じる心を持ち続け、自ら行動を起こす姿が印象的。愛と信頼の強さが試される緊張の始まり。
- 裴文宣が命をつなぎながら李蓉を想う姿と、李蓉が事件の真相を追いかける決意を固める流れが、二人の絆を静かに浮かび上がらせていく。
「度華年(どかねん)The Princess Royal」第18話 あらすじ:言葉より深く、目が語る再会
静かな午後、李蓉は中庭の石卓に向かい、盤上に白と黒の駒を並べていた。対面に座るのは裴文宣。久しぶりに顔を合わせた二人の間には、言葉よりも長い沈黙が流れていた。彼が一手を置くたびに、李蓉の指先がわずかに震える。過去の記憶が、今も胸の奥を締めつけていた。
裴文宣は、秦家の冤罪を晴らすために皇帝のもとへ向かっていた。李蓉はその帰還を待ちながら、報せが届くたびに胸を詰まらせた。彼が動けば、朝廷もまた動く。彼女は静かに扇を閉じ、夜の帳が降りるたびに祈るように目を閉じた。かつての憎しみも、疑念も、少しずつ形を変えていくのを感じていた。
皇帝は、裴文宣が差し出した証拠の巻物を手に取った。沈黙の中で、紙の擦れる音が響く。やがて玉印が押される音がして、すべてが決まった。秦家の処刑は取り消される。裴文宣は深く一礼し、その場を去った。彼の背に、皇帝の視線が静かに落ちる。信頼と試練が同居するまなざしだった。
その報せが李蓉のもとに届いたのは、雨上がりの夕暮れだった。軒先で風を受けながら、彼女は深く息をついた。目の前の景色が滲む。彼が戻る、それだけで胸の奥が温かくなった。前世で壊れてしまった信頼が、ようやく少しだけ形を取り戻したように感じた。
しかし、蘇容卿の影がその静けさを揺らす。彼は笑みを浮かべながらも、目の奥に複雑な色を宿していた。李蓉の心がどこに向かっているのか、彼には分かっていた。それでも、離れがたい気持ちが彼をその場に留めていた。彼女が微かに名を呼んだ瞬間、沈黙が重く落ちた。
夜、裴文宣が宮門をくぐる。長い旅の埃をまとったまま、まっすぐ李蓉のもとへ向かう。灯りに照らされた彼の顔を見た瞬間、李蓉の唇が小さく震えた。互いに言葉はなかった。ただ目を合わせただけで、過去のすべてが胸の奥に蘇る。
冷えた関係の中に、ようやく小さな光が差し込んでいた。裴文宣の行動が正義と信頼を呼び戻し、李蓉の心を再び動かしていく。蘇容卿の揺れる想いが静かな緊張を生み、三人の運命は新たな岐路に立っていた。
- 離れていた二人が再会し、言葉を交わさずとも深い心のつながりが感じられる場面が丁寧に描かれている。
- 裴文宣が秦家の冤罪を晴らすために奮闘し、その結果として李蓉との信頼がわずかに回復していく過程が切なくも温かい。
「度華年(どかねん)The Princess Royal」第19話 あらすじ:旗が立つ日、私は力を持った
朝の光が差し込む中、李蓉は静かに筆を取り、督察司の設立命令に署名した。墨の香りが部屋に広がる。長い間準備を進めてきた計画が、ついに形になった瞬間だった。上官雅が隣で控えている。彼女の目には、わずかな緊張と誇りの色が混じっていた。
上官旭の助言があってこそ、この一歩を踏み出せた。李蓉はそのことを理解していた。彼女は皇恩によって得た地位を、ただ守るのではなく、行使する覚悟を決めていた。上官家との協力は必要不可欠だった。だがその裏には、互いの思惑が静かに交錯している。
上官雅は、李蓉の横顔を見つめながら言った。
「殿下、これでようやく、我らの力を示す時が参りました」
李蓉はうなずき、ゆっくりと立ち上がる。視線の先には、これから彼女が治める新たな権力の中心があった。
裴文宣はその知らせを受けて、密かに微笑んだ。彼にとって李蓉の成功は、自分のことのように嬉しかった。彼女が過去の傷を超え、自らの足で立とうとしている。その姿を支えられることが、彼の望みだった。彼は彼女のもとに使者を送り、設立のための人員と資料を整えるよう命じた。
一方で、荀川は新たに任命された巡察使として、地方への赴任を命じられる。任命状を受け取る手が、わずかに震えた。心の中には、まだ整理のつかない想いが残っている。秦臨との別れ、李川への複雑な感情。任務に忠実であろうとするほど、私情が痛みとなって胸に刺さった。
その頃、上官旭は執務室で報告を聞いていた。李蓉が正式に督察司の主人となったという知らせに、彼は満足げに頷く。
「これでよい。李蓉が力を持てば、上官家も揺るがぬ」
その言葉の裏にあるのは、権力を保つための計算だった。李蓉の存在は、上官家にとって新たな盾でもあり、矛でもあった。
夕暮れ、督察司の門が開かれた。新たな旗が掲げられ、衛兵たちが整列する。李蓉はゆっくりとその前に立ち、振り返って裴文宣を見る。彼は穏やかに頷き、その姿を見つめ返した。互いの間に言葉はなかったが、確かな信頼が流れていた。
その瞬間、風が吹き抜け、旗が高く翻った。新しい時代の始まりを告げるように。李蓉の瞳には、決意の光が宿っていた。
- 李蓉が督察司を設立し、新たな政治的立場を得ることで、自立した女性としての一歩を踏み出す重要な転機が訪れる。
- 裴文宣や上官家の人々の支援と裏の思惑が交錯する中で、李蓉が「権力を持つ者」としてどのように進んでいくかが焦点となる。
「度華年(どかねん)The Princess Royal」第20話 あらすじ:疑いと愛が交錯した花の丘で
李蓉は、静かな午前の光の中で膳を整えていた。器の位置を何度も直しながら、自分でも理由の分からない焦りを感じていた。裴文宣のために用意した食事。彼に喜んでほしいと思う一方で、冷え切った空気を変える自信はなかった。彼が部屋に入ってきたとき、微笑もうとした唇が、思わず固く閉じてしまう。わずかな言葉のすれ違いが、またも口論を生んだ。互いに傷つけたくないのに、言葉だけが尖っていく。
その日の午後、裴文宣は花海の準備を進めていた。李蓉に笑ってほしかった。ただそれだけのために、彼は密かに人を動かし、色とりどりの花を敷き詰めさせた。けれど、李蓉の耳に入ったのは「裴文宣が密会をしている」という誤った知らせだった。彼女は怒りを抑えきれず、計画の場へと向かった。
花が風に揺れる丘の上、裴文宣が彼女の姿を見つけた時、微笑みがこぼれた。だが、その背後から影が迫る。黒装束の刺客が刃を振るい、花びらが血に染まった。裴文宣は咄嗟に李蓉を抱き寄せ、身体で刃を受け止めた。鮮やかな赤が、彼の衣に広がる。李蓉の顔から血の気が引いていった。誤解も怒りも、一瞬で崩れ去る。
蘇容卿が駆けつけたのは、風が止んだ後だった。彼はすぐに裴文宣の傷を確かめ、李蓉を見上げた。彼女の手が震えている。裴文宣の血に染まった袖を握りしめながら、何度も名前を呼んだ。応えの代わりに、彼の唇がわずかに動く。
「怖がるな。君を守れてよかった」
夕暮れ、花海に沈む光の中で、李蓉は裴文宣の傷口を拭い続けていた。彼の体温が確かにあることが、何よりも嬉しかった。前世で失った時間が、少しずつ埋まっていく気がした。
遠くで見守る蘇容卿のまなざしは静かだった。彼は李蓉の安堵した表情を見て、そっと背を向けた。守るべきものが何かを、改めて理解していた。
花びらが散り、夜風が二人の間を通り抜けていく。李蓉は裴文宣の手を握りながら、心の奥でひとつの確信を抱いた。もう二度と、彼を疑わないと。
- 裴文宣が花海を準備する純粋な想いと、李蓉の誤解から生まれたすれ違い、そして刺客の襲撃という急転直下の展開が感情を大きく揺さぶる。
- 命を懸けて李蓉を守った裴文宣の行動が、彼女の心に深く刻まれ、「もう疑わない」と誓うラストに強い余韻が残る。
感想
李蓉と裴文宣それぞれの「信じる心」と「歩む意志」が浮き彫りになる章。愛する者の生死を前にしても動じず、真実を求めて突き進む李蓉。一方、傷を抱えながらも再び歩み寄ろうとする裴文宣。その姿は決して声高ではないけれど、胸に刺さるほど静かに強い。
再会してもなおすれ違う二人の関係に、信頼の再構築というテーマが重なり、丁寧な心理描写が光ります。誤解から生まれた衝突と、命がけで守ろうとする行動。その全てが花びらのように折り重なり、二人の距離を縮めていく。過去を乗り越えようとする姿に、思わず胸が熱くなる展開が続きます。
